2020年、コロナで海外との往来ができない中で特定技能が静かに変化しています。多くの期待を受けて始まった「特定技能制度」、残念ながら初年度は目論見が大きく外れてしまいました。しかし日本国内での受入れ環境が進化しています。
ながらく日本で懸案だった外国人労働者の受入れについて、その対応策の一つとして打ち出された「特定技能制度」は最初から躓いてしまった感じです。というのは、2019年度で特定技能で働く外国人を最大4万7550人を受け入れるという政府の見込みに対して、2019年11月末で特定技能として働く人数は、1,019人、、、。
そもそもこの「特定技能」は、「技能実習制度」を事実上修正するために始まったとも言われています。「技能実習制度」については”あくまで実習生”という位置付けのために、基本的に働く本人は、実習先がブラックな環境でも転職もできません。低賃金で過酷な待遇に陥ってしまっている人のニュースを拝見された方も多いと思います。
2019年度に運用が始まった「特定技能制度」では、3つのキーポイントが盛り込まれました。
受け入れる外国人を実習生ではなく、”労働者”と明確に定義して、日本の労基法をはじめとした労働者保護の制度下で即戦力として働いてもらうことが目的です。
そして「特定技能」には、そのビザを申請する外国人にある種のハードルも設けられることになりました。
しかしほぼ無条件でビザが発給された技能実習と異なり、このハードルが特定技能ビザで就労を希望する外国人には日本で働くための障害が増えたことと同じように映りました。
「特定技能制度」では、雇う企業と働く外国人という2者だけではなく、その周囲に多くのプレイヤーが登場します。
特定技能への候補者
候補者多くが、東南アジアを中心とした発展途上国の若者です。彼らにとっては特定技能のビザを取得するために母国にいるうちに、・日本語N4以上のテスト・業界団体が実施する技能評価試験、の2つの試験に合格する必要があります。その後に日本での就職先を決めるという段取りです。
その国によっては、このような形で日本で働くために特定の団体に加入を強制されることもあり、その団体への支払い費用が発生します。
そして費用が発生するのなら、試験などなく、すぐに同じ期間日本で働ける技能実習を選ぶ若者が圧倒的に多くなってしまいました。
採用企業をまとめる業界団体
「特定技能制度」では、日本語の試験とは別に、各業界団体が実施する技能試験に合格する必要があります。この技能試験は業界団体が行っています。残念ながら海外では試験を受けることができる国がまったくバラバラの状態でした。ある国である業種の特定技能の試験を受けたくても、そもそも試験が行われていない状態なら、特定技能として日本に行ける条件が整うはずもありません。
特定技能を利用したい企業
「特定技能の外国人材」を雇用したい企業には、技能実習制度より格段に厳格な姿勢が求められることになりました。
その中でも実質的に登録支援機関を利用しないと海外から直接に外国人を受け入れることができない制度上の仕組みが、人件費を押し上げる結果となっています。もともと利益率の低い業界では特定技能人材に雇用に躊躇する状況を作り出しました。
外国人を支援する役割の登録支援機関
特定技能で外国人を雇い入れるには各企業が法で定められた、外国人が日本の生活に定着するための”支援”を提供する必要があります。
この支援提供では提供する企業の担当者やその経歴を厳格に求められます。これらの要件を雇用企業が満たせない場合には支援内容を登録支援機関に委託する必要があります。
しかしこの登録支援機関も、あくまでビジネスとして参入しているために特定技能ビザ外国人の人件費にその委託費が跳ね返ることになります。技能実習制度で度々問題が指摘されている「監理団体」とは大きく性格が異なり、多くの登録支援機関が外国人支援に注力していますが、やはり企業にとっては委託費用が重荷にもなっています。
母国の送出し機関
特定技能ビザでは建前上、技能実習生とは異なり、各国の送り出し機関を利用しないでよいことになっています。
この送り出し機関が技能実習生たちから様々な名目で収益を上げていたことは周知の事実です。
特定技能の登場でこのような団体が排除されることに期待が高まりました。しかし、結果は惨敗でした。
どこの地域のどの国とは申しませんが、自国民を単純労働者として海外の先進国に送り出すことは、(言葉は悪いですが)人気の高い輸出商品を扱っていることと同じです。当然日本以外にも需要はたくさんあります。そんな中で自分たちの儲けを排除する仕組みに積極的に参加するはずがありません。
このように、特定技能の2019年初年度は残念ながら、、、、といった結果となってしまいました。
相変わらずの技能実習生の悲惨な境遇が報道される中、着々と特定技能の制度が進化しています。
現在、特定技能を活用できる業種は、農業・外食など指定された14業種です。コロナで海外との往来が難しくなる中、このうちの漁業を除く、13の業種をまとめる各団体が日本国内で技能試験を受験できる体制を拡充しました。しかも年に複数回の試験を行う業種も数多くあります。
日本国内で受験ができるようになっただけ、と思われるかもしれませんが、実は大きく2019年と意味合いも企業のコストも異なっています。
日本語学校の卒業を前にした外国人留学生には、特定技能としてしばらくの期間を日本で働きその後大学や専門学校へ進学することができ、アルバイトしかできなかった家族滞在ビザの配偶者には、在留資格を特定技能に切り替えることでフルタイムで働く道が開かれました。しかも介護の業種で国家資格を取れば、特定技能の期間終了後には在留資格を介護ビザに変更して働き続けることができます。
特定技能ビザに関連して日本に住んでいる外国人が在留資格を特定技能に変更することについて、何度か入管の方に問い合わせる機会がありました。以下はあくまで私の感触でしかありませんが、入管の人たちも技能実習制度へ強い憤りを持っているように思えることがありました。
その一つが技能実習生が背負ってくる借金と日本での待遇です。母国の送り出し機関に支払う手数料、その送出し機関から日本の監理団体へ還流していることもあるキックバックは、結局のところ技能実習生一人ひとりから搾取している構造になっています。彼らの国の平均年収の数倍になる借金を背負い、そして多くの場合が母国の家族を保証人に取られて、日本で過酷な労働を強制させられる立場に追いやられている実習生への深い理解と、法制度を執行する立ち場に挟まれる、個人として感じていらっしゃる憤りです。
そしてすでに日本に住んでいる外国人が特定技能に在留資格を変更することについて質問を重ねると、言外に多くの示唆を与えてくれることもありました。
コロナは多くの人というよりも、ほぼ全ての方にマイナスの影響を与えています。しかし逆境の中で制度を少しでも良くしようと懸命に戦っている人たちがいること、日本に住んでいる外国の人たちに、特定技能の利用方法が少しづつ広がっていることを少しでもお伝えできれば幸いです。
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