雇用契約書とは

雇用契約書とは、会社と社員の間で雇用条件についてお互いに確認したことを証明する書類です。入社後の待遇や仕事内容などについてトラブルを予防する目的も兼ねています。人事部など人材採用を担当される方は普段から扱うことの多い書面ですが、ビザ申請の手続でも雇用契約書の提出が必要になります。

 

外国人社員との雇用契約書では「ビザ・在留資格に関する取り決め」や「ビザ・在留資格の審査に影響する担当業務の記載」など、日本人社員向けとは異なるポイントもございますので、このページの雇用契約書サンプルなどもご参考頂ければ幸いです。

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外国人社員向け雇用契約書の注意点

雇用契約書には「法律で必ず記載しなければならない事項」と、「なるべくなら記載しておいたほうが良い項目」の2種類があります。
そして外国人社員との雇用契約書ではビザに関するトラブルを防止するために、それらに加えて必ず下記のような内容の項目を付け加えてください。

「この雇用契約は、被用者が日本政府から労働許可および居住許可を発行されまたはその許可が更新された場合に発効するものとする。」

外国人社員(または採用候補者)に対して会社勤務に必要なビザ・在留資格が不許可または更新不可となった場合に、会社と外国人社員双方の無用な損害を防止する重要な項目です。この項目の内容はなるべく口頭でも説明して、外国人社員の理解を求めてください。
もしもこの記載がないと、「日本に入国(または滞在)できないけれど会社との雇用契約そのものは有効に成立している」などの主張がなされ、不要なトラブルが発生する可能性も考えられます。

 

そしてこの他には、入社後のビザの更新手続きなども考慮した項目を入れておけば、ビザに関するトラブルをさらに防ぐことができます。

ビザの更新手続きは、(外国人社員本人が行うのか・会社担当者が行うのか)(・手続き費用は本人負担か、会社負担か)(手続きに行っている間の時間は、業務時間か、時間外か)

実際にはこのようなことを明確に定めていない会社が多く、外国人社員から問合せを受けるたびに説明し納得してもらうまで結構な時間を割かれている担当者の事例をお聞きすることがあります。

 

当事務所では原則的に、

  • 会社都合の転勤などの場合は会社の費用負担で会社がおこなう手続
  • その他の場合は外国人社員個人の負担と手続き、必要な時間は業務時間外

とアドバイスさせて頂いております。ただし外国人社員が自分で手続きを行うとしても、会社に関連する提出書類は関係部署の方の協力なしには準備も用意もできないので積極的なサポートは必要となります。

法律で必ず記載しなければならない項目

雇用契約書には法律によって必ず記載しなければならない項目があります。下記の8項目が労働基準法により、会社・雇用主から労働者へ明示しなければならないとされています。

 

1:労働契約期間

正社員など期間の定めがない場合は、「期間の定めなし」と記載します。有期契約(いわゆる契約社員など)では、契約期間をいつからいつまでと明記し、もし契約を更新できる場合には、「双方の合意で更新が可能」などと続けて記載します。

 

2:働く場所

会社の名称や事業所名(例:本社事務所、○○支店など)とその住所を記載します。入社後すぐに異動の予定などがあれば、異動先の名称や住所もあらかじめ記載したほうが効率的です。

 

3:担当する業務内容

入社後の担当業務を記載します。具体的に「英文契約書作成業務」、「ソフトウエア開発業務」、「経理業務」などと実際に担当する業務を記載します。ビザを申請する場合は希望したビザの種類で許可される業務内容とあっているかどうかもこの内容が確認され審査されます。

 

4:始業と終業の時刻

始業は何時、終業は何時と、実際の就業時間を記載します。また休憩時間も何時から何時までの何時間と具体的に記載します。フレックスタイム制やシフト制を採用されているならその記載も必要です。

 

5:休日

労働者に与えられる休日を、土曜日・日曜日・国民の休日などと記載し、年末年始など会社で定めた休暇期間がある場合はその期間も記載します。休憩時間や休日休暇は、労働基準法に適合した内容であることを意識してください。

 

6:有給休暇

労働者に付与される有給休暇の日数について記載します。翌年度への繰り越しについても特別な規定がなければ、法定の内容を記載するほうが良いでしょう。

 

7:賃金の決定・計算・支払方法、賃金の締切り・支払の時期に関する事項

月給の金額、時間外手当、給与計算の開始日と締め日、1カ月に満たない場合の計算方法、支払日と支払方法など記載します。
ほとんどの就労系ビザでは日本人社員の報酬と同額以上の報酬であることが条件となっています。労働時間も含めて外国人社員への差別的な待遇とみなされないようご注意ください。

 

8:退職に関する事項(解雇の事由を含む)

退職(解雇含む)について手続きや条件を記載します。労働基準法の内容に適合する形でなるべく具体的に記載してください。

記載したほうが良いとされている事項

法律で規定され手はいませんが、記載しておいた方が望ましいとされているのは下記のような項目です。

  • 昇給に関する事項について
  • 定時昇給の制度などがあれば記載するようにしてください。
  • 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算・支払いの方法、支払いの時期について
  • 退職金制度などがある場合には、その詳細について記載するようにしてください。
  • 臨時の賃金・賞与などについて
  • 労働者が負担する食費や作業用品などについて
  • 安全衛生について
  • 職業訓練について
  • 災害補償、業務外の傷病扶助について
  • 表彰、制裁について
  • 休職について
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雇用契約書のサンプル

上記でご紹介させていただいた項目や注意点を踏まえたサンプルを下記にご用意いたしました。この雇用契約書の例では、必ず記載しなければいけない項目を赤字で示しています。そして青字は外国人社員との雇用契約で付け加えるべき項目です。なおサンプルの契約書は英語と日本語の併記になっていますが、相手の外国人が理解できる言語(なるべく母国語)で作成されることも重要です。

 

Employment Agreement / 雇用契約書

○○○○○Co., Ltd(the “Company”) and △△△△ △△△△(the “Employee”) hereby enter into the following contract of employment.

 

○○○○○株式会社(以下、会社という)と△△△△ △△△△(カタカナ表記)(以下、被用者という)とは、以下の労働契約を締結する。

 

1. Employment Period
The Company shall employ the Employee without a fixed term, which starts on April 1, 20○○.However, that the initial period of 6 months shall bethe trial period.

 

1. 雇用期間
会社は、被用者を、20○○年4月1日から期間の定めなく雇用する。ただし、最初の6ヶ月を試用期間とする。

 

2. Place of Employment
The Employee’s work site will be at the head office of the Company(address)

 

2. 就業場所
被用者の就業場所は、会社本社事務所とする。(住所)

 

3. Work to be Performed
Work to be performed by the Employee shall be to check various English language contracts, to interpret for executives, and to assist in creating English documents.

 

3. 従事業務
被用者が従事する業務は、各種英文契約書の確認作業、要人への通訳、英語資料作成の補助とする。

 

4. Work Hours
The starting time and closing time for the Employee shall be as follows:
Starting time: 9:30 a.m. Closing time: 6:30 p.m.
The break shall be for 1 hour starting at 12:00 pm. and ending at 1:00 pm.
The Employee may be required to work outside the above normal working hours in some cases. Working time may be changed for a business reason in some cases.

 

4. 就業時間
被用者の就業時間は、以下のとおりとする。
始業 午前9:30  終業 午後6:30
休憩時間は、午後12時から午後1時までの1時間とする。
被用者は前記就業時間外での労働を求められることがある。就業時間は、業務上の理由で変更されることがある。

 

5. Holidays
Day off work for the Employee shall be, Saturdays, Sundays, national holidays, and, a period starting on December 29 and ending on January 3 next year.

 

5. 休日休暇
被用者の休日または休暇は、土曜日、日曜日、国民の休日、および12月29日から翌年1月3日までとする。

 

6. Annual Paid Vacation Days
The Employee shall have 12 annual paid vacation days. Unused vacation days may be carried over the next year only.

 

6. 年次有給休暇
被用者の年次有給休暇は年間12日とする。未取得の年次有給休暇は翌年度に限り繰越すことができる。

 

7. Wages
Basic Salary ×××,×××Yen
Overtime Allowance
Within legal hours:  ××,×××Yen
Outside of legal hours: Shall be paid in accordance with the Labor Standards Law.
Bonus: The Employee shall participate in the annual incentive plan at a target level of up to 50% of the employee’s annual base salary based on the achievement of certain the Company and individual performance metrics.
Salary increase: Once a year (in April), However, it may not be revised depending on the Company's performance or the Employee performance.
Retirement Benefit : Not applicable.
Payment method: The Company shall pay salary or bonus by transferring it to the bank account notified by the Employee on the specified date.

 

7. 賃金
基本給与 : ×××,×××Yen
時間外手当
法定内 : ××,×××Yen
法定外 : 労働基準法の規定に従い支給される。
賞与 : 被用者は会社および個々の業績指標の達成に基づいて、従業員の年間基本給の50%を上限とし年間インセンティブプランに参加するものする。
昇給 : 年1回(4月)しかし会社または被用者の成績により改定しない場合がある。
退職金 : 支給しない。
支払方法:被雇用者が届出た金融機関の口座に規定の期日に振り込むものとする。

 

8. Salary Calculation Period
The salary calculation period shall be from the first day to the last day of every month.
The Employee joining or leaving the company during the salary calculation period, the salary shall be paid the amount which shall be calculated by dividing basic salary by the number of business days of the month and multiplied by the number of working days.

 

8. 給与計算期間
給与計算期間は、毎月1日から末日までとする。
被用者が給与計算期間中に入社または退社した場合は、基本給を該当月の営業日数で除し、就業日数を乗じた額を給与として支給する。

 

9. Pay Day
Salary shall be paid on the 25th of every month.
If the pay day falls on a non-business day, the salary shall be paid on the business day prior to pay day.
Bonus shall be paid on the 10th of the applicable month. If the bonus payment date falls on a non-business day, bonus shall be paid on the business day prior to that day.

 

9. 給与支給日と賞与支給日
給与は毎月25日に支給されるものとする。支給日が休業日である場合は、前日の営業日に給与を支給する。
賞与は該当月の10日に支払う。支給日が休業日の場合は、前日の営業日に支給する。

 

10. Allowance
Commuting Cost shall be paid in accordance with the Company’s regulation.

 

10. 手当
通勤費は会社の規定に従って支給されるものとする。

 

11. Social Insurance
The Employee shall be covered by health insurance, employee pension, employment insurance and worker’s accident compensation insurance.

 

11. 社会保険
被用者は、健康保険、厚生年金、雇用保険、労災保険に加入するものとする。

 

12. Termination of Employment
Termination
The employee’s employment shall be terminated for any of the following.
1. The Employee requests to resign for personal reason and the request is approved by the Company.
2. A predetermined period of employment ends
3. Death of the Employee
4. The Employee requires more than the stipulated date due to a non-work related injury or illness.

 

Termination Procedures
In the case of termination due to the Employee’s personal reasons or due to expiration of the contract period, the Employee shall submit a statement of resignation with the reason to the Company on the format prescribed by the Company at least 1 month prior to termination.

 

12. 退職に関する事項
退職
次の各号のいずれかに該当する場合は、退職とする。
1. 被用者が自己の都合で退職を願い出て、承認されたとき
2. 期間の定めのある雇用が満了したとき
3. 被用者が死亡したとき
4. 被用者の業務外の傷病による休職期間が所定の期間を経過したとき

 

退職の手続き
被用者の自己都合または契約期間満了にて退職する場合は、被用者はその事由を記入した会社所定の退職届を少なくとも退職日の1カ月前までに会社に提出するものとする。

 

13. Dismissal
The Employee shall be dismissed for any of the following by the Company.
1. The Employee is deemed unable to handle the assigned work due to mental or physical disability.
2. The Employee is deemed unsuitable for employment due to lack of necessary skills or poor work performance.
3. The Employee fails to demonstrate a positive attitude toward work and fails to improve after repeated warnings.
4. The Employee fails to cooperate with colleagues or engages in behavior that causes a damaging effect on other employee’s work performance.
5. In addition to the preceding items, if there is a serious reason for dismissing the Employee and the prescribed procedure is executed.

 

Dismissal Procedures.
In the case of dismissal as described in the previous clause, expect in the case of the following, the Company shall give notice to the employee 30 days in advance. Or if it does not give notice 30 days in advance, the company shall pay dismissal allowance as an average wage of 30 days or more. However, the number of days of notice can be shortened by the number of days that the average wage is paid.

 

13. 解雇について
被用者が下記の事項に該当するときは、会社は被用者を解雇する。
1. 被用者が身体又は精神の障害により、業務に耐えないと認められる場合
2. 能力が著しく不足しまたは勤務成績が著しく不良で就業に適さないと認められる場合
3. 勤務態度が不良で、複数回の指導によっても改善が見られない場合
4. 著しく協調性を欠き、他の従業員の業務遂行に悪影響を及ぼす場合
5. 前各号の他、解雇に足る事由があり、所定の手続きを経た場合

 

解雇の手続きについて
前項により解雇をする場合には、次に定める各号を除き、会社は30日前に被用者へ予告を行うものとする。または30日前の予告を行なわい場合は30日の平均賃金またはそれ以上の金額を解雇手当として支払う。しかしながら解雇手当を支払った日数分は予告期間を短縮することができる。

 

14. Confidentiality
The Employee may not disclose, use for any other purpose or leak the Company or the Company’s director, employee, customer, or other confidential or personal information obtained during the Employee’s work without a valid reason while the Employee is employed by the Company and after termination of employment.
In the case that the Employee intentionally or negligently causes damage to the Company in violation of the above provisions, the Employee must compensate the Company for the damage.

 

14. 秘密保持義務
被用者は在職中または退職後に、正当な理由なく業務上知り得た会社、会社の役員、従業員、顧客、その他の秘密または個人情報を開示、利用目的を逸脱した使用または漏洩してはならない。
被用者は故意または過失により上記規定に違反し、会社に損害を与えた場合には、会社の損害を賠償しなければならない。

 

15. Prohibition of Current Employment
The Employee may not work as director or employee of other companies without the permission of the Company. And the Employee must not run your own business without the permission of the Company.

 

15. 兼業の禁止
被用者は会社の許可なく、他の会社の役員、従業員として働いてはならない。また会社の許可なく自ら事業を営んではならない。

 

16. Reference
16-1 Any matters not stipulated in this contract shall be governed by the Labor Standards Law and other related laws.
16-2 This employment contract shall take effect in the case that the employee shall be issued or renewed the work and residence permission by the Government of Japan.
16-3 The employee shall bear the cost of procedures related to the renewal and change of the above work permit and residence permit, the procedure shall be carried out by the employee, and the time required for the procedure shall be treated as non-business hours.

 

16. 備考
16-1 本契約に規定されていない事項について、労働基準法その他の関係法令に従うものとする。
16-2この雇用契約は、被用者が日本政府から労働許可および居住許可を発行されまたはその許可が更新された場合に発効するものとする。
16-3上記労働許可および居住許可の更新、変更などに係る手続きの費用は被用者の負担とし、同手続きは被用者がおこない、同手続きを行う時間は業務時間外として取り扱う。

 

 

Date:

 

日付:

 

The Employer (the “Company”)
(Company name)
(President name)
(Address )

 

雇用主(会社)
(会社名)
(代表者名)
(住所)
(押印または署名)

 

The Employee
(Name)
(Address)

 

被用者
(氏名)
(住所)
(署名)

ビザ申請と雇用契約書

就労系ビザの申請では雇用契約書の内容について下記のような事項も審査の対象となります。

1 職務内容が申請するビザで規定されている範囲のものか?

就労系ビザには、ビザの種類に応じた職種・職務内容が規定されています。例えば技術・人文知識・国際業務は、オフィスで働くホワイトカラー的な職務内容となっています。このビザを申請する場合に、もし雇用契約書の職務内容が ”調理スタッフ” などと記載されていると、ほぼ不許可となります。

2 給与・待遇が日本人の場合より下回ってはいないか?

就労系ビザの条件として、”日本人の待遇と同等かそれ以上であること”と規定されています。社内で同職種の日本人社員と比較して、経験年数の差などの合理的な理由なく待遇が下回る場合には、不許可とされる可能性があります。

3 業務内容が1日8時間/週40時間で過不足がないか?

職務内容が、”フルタイムで雇用することが必要なのか?” と疑いを持たれないようご注意ください。たとえば ”VIP顧客来日時の通訳のみ” などと記載すると不許可の可能性が非常に高まります。その逆に、業務量が多すぎて明らかに超過勤務を前提にしているような内容でも不許可の可能性が高まります。

 

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雇用契約書と労働条件通知書

労働条件通知書とは「雇用主が社員などを雇用するときに、被雇用者へ必ず明示して交付しなければならない労働条件を記載した書面」のことで労働基準法によって雇用主の義務と規定されています。
労働条件通知書で必ず明示しなければならない内容は、じつはこれまでに解説してきた雇用契約書と同じ内容です。

 

雇用契約書の締結義務は法律上定められていませんが、雇用契約書は労働条件通知書の規制に従って作成されるので、ほぼ同じ役割を担うことになります。法的に必要な事項を記載した雇用契約書を作成し、双方署名すれば、労働条件通知書を交付したことと同じ効力を得ます。しかし雇用契約書が労働条件通知書と明確に異なる点は、雇用主と労働者の双方で労働条件についての合意があったと証明が容易になることです。

  • 労働条件通知書は雇い主からの一方的な通知文書
  • 雇用契約書は双方の署名により労働条件に合意したことを証明する書面

労働条件通知書は、労働者に条件を通知するだけの一方通行です。後日に労働者側から「聞いていた内容と違う」「そのような文書はもらっていない」といった主張がなされるなど、不必要なトラブルを起こす可能性があります。
それに対して雇用契約書では雇用者と労働者が雇用条件について合意したことを、双方の署名によって証明できるので、労働条件に関するトラブルを防止するメリットがあります。

 

実務上では、この2つの書類の性格を合わせた「労働条件通知書兼雇用契約書」として作成することも多くあります。雇用契約書でも労働条件通知書兼雇用契約書でも必ず2部作成し、それぞれで署名して保管しておくことが肝心です。

 

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